I will steal the moon 月を盗む

I will steal the moon 月を盗む


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月を盗む

町中が寝静まった夜中、僕はこっそりと目を覚まし、隣で寝ている妻を起こさないように、布団をめくる。クロゼットの奥に沈めている真っ黒のツナギに着替え、真っ黒い帽子をかぶり、真っ黒のリュックを背負う。

夜にまぎれた僕は、この町で最も高い鉄塔までやってきた。電気はすべて消えていて、人気もない。鉄骨を一本一本つたいながら、クモのようによじ登っていく。湿った風と、夜よりも暗い雲が流れてきた。雨が降るかもしれない。こんなところで雷が落ちたら、まっさきにやられてしまう。急ごう。てっぺんまでもうすぐだ。

塔の先端まで登りきると、月は手を伸ばせば届くくらい近くにある。僕はふところから特製のスプーンを取り出した。こいつで月の尻のあたりを、すくいとる。月のカケラがポケットにいっぱいになったら、もう十分だ。するすると下まで降りて、月を見上げると、ずいぶん小さくなった気がする。なに、心配はいらない。いつの間にか、元どおりに太ってるから。


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